東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)162号 判決
(争いのない事実)
一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本件補正後の実用新案登録請求の範囲及び本件決定理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。
(本件決定を取り消すべき事由の有無について)
二 本件決定は、以下に説示するとおり、本件補正による実用新案登録請求の範囲の変更は原明細書及び原図面に記載された事項の範囲内においてされたものであるにかかわらず、明細書の要旨を変更するものとの誤つた結論を導いたものであり、違法として取り消されるべきである。
1 前記争いのない本件補正後の実用新案登録請求の範囲におけるストロボ閃光装置が、カメラの遠隔操作のみに用いられるものを含み、この場合、単独で使用され、かつ、発光できるよう構成され、被写体の照明について考慮を払うものではない点は、当事者間に争いがないところ、右事実に本件補正後の実用新案登録請求の範囲、成立に争いのない甲第三号証並びに第二号証の三中の第二図、第四図及び第五図を総合すれば、本件補正後の明細書及び図面に記載された考案は、ストロボ閃光装置を用い、その閃光によつてカメラのシヤツタを遠隔操作することができるシヤツタ作動装置に関するもので、カメラのシヤツタの作動をストロボ閃光装置を用いて遠隔操作により行うとすれば、他人のストロボ閃光装置の閃光によつてシヤツタが誤作動する欠点があり、本件考案の考案者は、右欠点を解決するため、ストロボ閃光装置の発する特定の信号を含む閃光を受けたときにのみ作動せしめられてシヤツタを作動せしめるカメラのシヤツタ作動装置を考案したところ、この場合、なお、蛍光灯や白熱電球の点滅による光によつて誤作動を生ずるおそれがあるので、この課題を解決するため前記実用新案登録請求の範囲(本件補正後のもの)記載の構成を採用したものであり、これにより、以上の誤作動の危険を除去し、確実にカメラのシヤツタを作動させる効果を奏することができるものであることを認めることができる。
2 ところで、成立に争いのない甲第二号証の二(原明細書)及び前掲同号証の三によれば、原明細書は、実用新案登録請求の範囲を「親カメラに取付けられたストロボ閃光装置に、その閃光波形に特定の信号を与える信号回路を設け、かつ投光部に所定成分の光のみを通すフイルタを着脱自在に設けると共に、このストロボ閃光装置の光を受ける受光部に上記所定成分の光のみを通すフイルタを着脱自在に設けてその光信号を判別するデコーダ回路を子カメラに設け、このデコーダ回路に、上記特定の信号を有する所定成分の光のみを受けたときのみ作動せしめられて子カメラのシヤツタボタンを押すためのブランジヤ電磁コイルを接続して構成したことを特徴とするストロボ撮影におけるシヤツタ作動装置。」とするものであり、その考案の詳細な説明の項の記載によると、この考案は、ストロボ撮影におけるシヤツタ作動装置、特に、親カメラに取り付けたストロボ閃光装置の閃光によつて子カメラのシヤツタを作動するようにしたシヤツタ作動装置に関するものであつて、従来、子カメラのシヤツタボタンを親カメラに取り付けたストロボ閃光装置の閃光によつて作動するようにして、親カメラのシヤツタボタンを押すだけで、一つの被写体を別角度から親、子カメラで同時にストロボ撮影をする場合、子カメラが他人のカメラの閃光装置の閃光によつて誤作動をする欠点があり、これに対処して本考案の考案者は親カメラのストロボ閃光装置の発する特定の信号を含む閃光を受けたときのみ作動せしめられ、シヤツタを作動せしめる子カメラのシヤツタ作動装置を考案したものであるところ、この場合においても、子カメラにストロボ閃光装置の閃光で閃光する増灯装置を設けたときに、親カメラの閃光装置の閃光で右増灯装置が閃光する欠点を生ずるため、この欠点を除去することを考案の目的及び課題とし、前記実用新案登録請求の範囲(本件補正前のもの)のとおりの構成を採用し、これにより右欠点を解決して誤作動を防止する効果を奏し得るようにしたものであつて、ストロボ閃光装置を単独で使用し、親カメラを必要としない構成については、何ら記載するところがないことを認めることができる。
右認定の事実によれば、本件補正前の考案は、ストロボ閃光装置を親カメラと一体に結合させること、すなわち、親カメラにストロボ閃光装置を取り付けて使用することを必須の構成要件とするものであることは明らかである。しかし、一般に、ストロボ閃光装置を発光させる場合に、それをカメラ(原明細書記載の親カメラもこれに含まれる。)に取り付け、そのシヤツタボタンの操作によつて発光させること自体は自明の事項であるから、原明細書において、親カメラに取り付けられたストロボ閃光装置は、ストロボ閃光装置を発光させるための極めて普通の技術手段にすぎず、したがつて、親カメラにストロボ閃光装置が取り付けられること自体には、格別の技術的意義があるものということはできず、この点に前認定の原明細書及び原図面に示された考案の目的、課題及びその解決手段としての構成を総合すれば、原明細書及び原図面に開示された考案の技術的思想の本質は、所定成分の光のみを通すフイルタを選択的に設け、かつ、デコーダ回路を有するカメラのシヤツタボタン操作を、右カメラから離れた位置にある特定の閃光波形を発生するとともに、右所定成分の光を選択的に発生するストロボ閃光装置によつて行い、もつて、予め定められたストロボ閃光装置以外の閃光等により右シヤツタボタンが誤作動をすることを防止することにあるものと認めるべきである。そうであれば、原明細書及び原図面には、前認定の本件補正後の明細書及び図面に開示された考案の技術的思想と同一の技術的思想が開示されていることは明らかである。なお、被告は、ストロボ閃光装置においては、手動スイツチはそれに不可欠のものでなく、原明細書には、親カメラのシヤツタボタンに連動して閉じるスイツチが記載されているだけで、手動スイツチについての記載はない旨主張するが、ストロボ閃光装置に、それが正常に発光するか否かのテストを行うための手動スイツチが付属しているもの(この存在は被告の認めるところである。)のほかに、右テストスイツチの付属していないものも存することは、成立に争いのない乙第一号証及び手動スイツチのないストロボ閃光装置であることに争いのない検乙第一号証により認められるところであるが、これらのストロボ閃光装置の発光については、テストスイツチのあるものでは、これを親カメラに取り付けて発光させるか、あるいは単独で発光させることが可能であり、また、テストスイツチのないものでは、これを親カメラに取り付けて発光させることができるものということができ、両者はいずれも、手動操作によつてストロボ閃光装置を発光させることができるものであるから、ストロボ閃光装置を発光させるのに親カメラの存在が必要不可欠であるというものではない。また、原明細書における親カメラのシヤツタボタンに連動して閉じるスイツチについては、右スイツチがストロボ閃光装置を発光させるための手動操作可能なスイツチであればよいことは、原明細書に開示された前認定の技術的思想の範囲内において十分認識することができ、しかも、ストロボ閃光装置の発光に、親カメラのシヤツタボタンの介在が格別の技術的意義を有しないことは前説示のとおりであるから、被告の右主張は、採用するに由ない。
3 以上のとおりであるとすれば、本件補正後の実用新案登録請求の範囲は、原明細書及び原図面に記載された事項の範囲内にあることは、明らかであり、したがつて、本件補正は原明細書の要旨を変更するものではないといわなければならない。
(結語)
三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件決定の取消しを求める原告の本訴請求は、理由があるものということができる。よつて、これを認容することとする。
〔編註〕 本件補正後の実用新案登録請求の範囲は左のとおりである。
ストロボ閃光装置にその閃光波形に特定の信号を与える信号回路を設け、かつ投光部に所定成分の光のみを通すフイルタを着脱自在に設けると共に、カメラにはこのストロボ閃光装置の光を受ける受光部に上記所定成分の光のみを通すフイルタを着脱自在に備えその光信号を判別するデコーダ回路と、このデコーダ回路に接続され上記特定の信号を有する所定成分の光のみを受けたときにのみ作動せしめられてシヤツタを作動せしめるためのシヤツタ作動回路とを設けて構成したカメラのシヤツタ作動装置。